小説 ひとのもの①


美咲は他人のものをはじめて欲しいと思った・・・・・ひとのもの?

美咲は子供の頃より、厳しい親に育てられた。

母親はとくに人様のものをとるなどはもってのほか、と美咲にことあることに言っていた。その度に美咲はそんなことわかっている、他人のものなど興味はない、自分には関係ない、お母さんは口うるさいなあ、と聞き流していた。

神田美咲は現在41歳で、商社の経理をしている。

25歳の時に結婚を考えていた男性に振られてから、男性不信というか、自分にまったく自信を持てなかったので男性との付き合いをさけていた。

ある日、隣の部署に中途採用の男性の歓迎会で飲みにゆくので、美咲さんもどう?とよくおしゃべりする30代の女性から誘われた。

いつもなら当然のように断るのだが、なぜかその日は気分が良く「行くよ」と答えてしまった。

当日、集合場所の居酒屋に行く前に、普段はつけない赤いグロスをつけてみた・・・・鏡にうつる自分の顔をみたとき、とても心が惨めな気分になっていた。

美咲が席に着く頃には、参加者はほとんど席についていたので、美咲は一番はしの席に座った。

きっと誰も私のことなど気にしてない・・・・

新しく仲間になった社員が軽く挨拶を終えるころに、ドリンク、食事が運ばれてきた。

美咲はお酒はそんなに強くないので、ビールをトマトジュースで割るレッドアイを頼んだ。1杯飲んだら帰りたいなあなどと考えていると、赤い色のドリンクが目の前に置かれた。

同じ赤いドリンクがトレンチの上にもう一つあった、そのレッドアイを店員が向かいの席に置いた

その時、はじめて向かいの人の顔を見た。その人は少しはにかんで同じですねと小さい声でつぶやいた・・・・・美咲の胸がトクっとかすかに動いたのがわかった。

同じドリンクを注文しただけなのに・・・・美咲はなぜか向かいの男性が気になりはじめていた。

次に美咲がその男性にあったのは、会社の近くの定食屋だった。1人席のテーブルがならんでいる定食屋は昼時はいつも近隣の会社員で一杯だ。

たまたま美咲の隣の席が空いていた。その席に同じレッドアイを頼んだ同僚が座った。

その同僚は39歳の大内直樹さんだった。最初の飲み会の時は美咲は早々に切り上げてしまったが、会社の誰かが参加者の名前を言っていたのを聞いて覚えていた。

隣に座ったその人は美咲の目を見てゆっくりと 神田さんこの店好きですね、と言った

えっ?美咲は意味が分からず戸惑ったが、いえ、ここしか知らないのでと言って席をたった。

自分の心が動揺しているのがはっきり分かった。なんであの人はあんなことを言うのだろうか??私が毎日あの定食屋に通っていることを知っているの?

美咲は何とも言えない心の動揺を知り、空を見上げて大きく息を吸った・・・・・・

つづく

投稿者: Kayo

美容師から 古典、歎異鈔などのセミナー講師への転身、30年間北は北海道から南は沖縄まで全国を講座に回る。 2020年に退職し、夢に向かっての奮闘記や、ジェンダー問題をブログにて公開中! ★Bar経営 ★メンタルヘルス・マネジメント®検定試験Ⅱ種合格

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