小説 ひとのもの④

美咲は昼の定食屋にもう3日も行ってない。直樹さんはもういないだろうと

店をのぞいてみると、そこに直樹の姿があった。なんで、なんでそこに座っているの?

美咲は嬉しさと訳のわからない腹立ちで、直樹の横に座って、直樹をにらんだ。

直樹は優しさがまじった瞳で美咲を見た、そして、待ってたよ、と言った・・・・

なんで?そんなこと言うの、そんな言葉をいうなら直樹さんの本心を聞かせて欲しいと願った、しかしその質問をすることが2人にとってどんなに大変なことなのか・・・・・美咲は知っていて言葉にできない。

直樹と美咲は自然と当然のようにテーブルの下で手を握りあっていた。

賑わう定食屋での一時が、二人の心を通じあえる暖かい時間となった・・・

そんなある日、いつものように直樹が来るのを待っていると、1時近くになっても直樹はあらわれなかった。どうしたのだろう?仕事が忙しいのだろうか?

次の日も次の日も直樹が店に来ることはなかった。

直樹ともう4日もあっていなかった。そんなある日同僚から3月に大内さん人事異動で新潟に戻るらしいよ、と聞いた。

その言葉を聞いた瞬間ショックでその後自分はどんな仕事をしたのかよく覚えていないほど、頭が真っ白になった。

悲しみが大きすぎると、涙もでない、ただただ心が乾いてゆく・・・・

翌日、定食屋に直樹がやって来た、美咲は唇を噛み締めていた。そして

我慢できない思いと、怒りをぶつけていた、「なんで人事異動のこと私に言ってくれなかったんですか?」

「そんなに私は直樹さんにとってどうでもいい存在なのですか?」溢れだす思いが言葉になりとめることができなかった。

しばらく黙って聞いていた直樹は、絞り出すように声にだした。

「言えなかった、いや、言いたくなかったんだ」、強い口調で言い、席を立って店を出て行った。

美咲はこんなことって、こんなことって現実なの、辛すぎる。

誰か助けて・・・心の叫びが周りに聞こえないように、思い切り目をつぶった。

明日は、大寒波がくるらしいよ、と知らない誰かが大きな声で言っていた。

世界中白い雪に埋もれてしまえ、そんなことを思いながら美咲は空を見上げて、直樹と見た美しい太陽を探したが、灰色の空がどこまでも広がっていただけだった・・・・

つづく